子供が「学校に行きたくない」と言ったら

今年はコロナ禍で少しイレギュラーな夏休みでした。もうすぐ夏休みが終わる、というご家庭もあるのではないでしょうか。一方で、新学期が始まるタイミングは「お子さんの心のケア」と言う意味でとても大切なタイミングでもあると言われています。もしお子さんが「学校に行きたくない」と気持ちを話してくれたら。どう対応していくか一緒に考えてみませんか?

 

二学期が始まる日は子供にとって「憂鬱な日」

9月1日は子供の自殺が多い日

「9月1日」というキーワード、実は子どもの安全に関わるとっても大事なキーワードなのですがあなたはご存知ですか?
過去40年以上の調査で、9月1日は子どもの自殺が一番多かった日なのです。
2015年の内閣府の調査によると、1972年から2013年の42年間について18歳以下の子供が自殺した日の中で9月1日の自殺者数が131人と突出していたそうです。

今は各自治体や学校によって二学期の始まりはバラバラですが、かつては9月1日は二学期の初日でした。
NHKでは夏休み最後の夜の憂鬱な気持ちを分かち合う場所を作ろうと「#8月31日の夜に」とハッシュタグを作り、10代の子供達が日記形式で気持ちや出来事を自由に書き込めるサイトを運営しています。
NHK #8月31日の夜に。公式サイト
大人にとっても子供にとっても「休み」は自分の心と身体を充電する時間です。その時間が貴重であればあるほど、「また辛い現実と向き合わなくてはいけない」と心が大きく揺れます。
その葛藤の中で、二学期が始まる日に自ら命を絶つという悲しい選択をしてしまうお子さんが多いのは親としては見過ごせない事実ですよね。


親がやってしまいがちなこと

一学期まで元気に学校に行っていたお子さんが突然「学校に行きたくない」と言い始めた時。
私だってきっと「何があったの?!」と動揺してしまうと思います。
そういう時についやってしまうのが「何とか学校に行かせよう」と説得する事ではないでしょうか。

一度休み癖、サボり癖が身に付いてしまうと、そのまま学校に行けなくなってしまうのではないかと言う不安。
自分は学校が楽しかったし、一度きりしかない青春時代なんだから勿体ない!今を乗り越えれば何とかなるよ!と言う自分の経験に基づいた思い。

親だって人間ですし、そんな時にどう対応したらいいかなんて教えてもらった事もないですから、本当に迷うと思います。それに子供の将来を思うからこそ
「今が頑張り時だよ!」
「社会に出るまでの辛抱だよ!」
と何とか奮起してもらおうと発破をかけたくなるかもしれませんね。

でもそこでちょっとだけ考えていただきたいんです。



「学校に行かなくて困る」は誰の意見か?

アドラー心理学に「課題の分離」という概念があります。
「最終的にその事に対する責任を自分が負う」のであれば自分の課題」、「最終的にその事に対する責任を相手が負う」のであれば「相手の課題」と分けます。
「勉強」を例にとると分かりやすいのですが、勉強を真面目にしなくて成績が芳しくなく、進路が限定されてしまうのは(冷たい言い方かもしれませんが)「勉強しなかった子供の責任」です。親が子供の代わりに試験を受ける事も出来ませんし、就職面接を受ける事も出来ませんから、つまり「子供の課題」ですね。

ですが、親子間では親と子供の「課題の分離」がし辛いのも事実です。

子供が勉強できないのは親の責任
子供を東大に合格させるためには親が努力しないといけない
そんなフレーズを聞いたことがありませんか?まるで子供の能力が親の能力や努力で決まるような感覚になりそうですよね。

確かに子供に勉強の必要性を伝える、進路を選ぶために努力が必要であることを伝える、というのは親の役割かもしれませんが、「伝えた」事を「どう受け取るか」は子供に責任があるとすれば、子供を動かそうと必要以上に働きかける事は「干渉」であり、子供の自主性や意欲を奪ってしまう可能性もあります。

そう考えると
「学校に行かなくて困る」
「勉強が追いつけなくなって困る」
「諦め癖が付いたら困る」
のも、本当に困るのは「子供」であるはずです。ですが「自分が何とかしてあげなくてはいけない!」という親心からつい「この子が失敗したら私が困る」という気持ちを「あなたが困る」という言葉に乗せて伝えようとしてしまうのではないかと思います。

別に子供に意地悪をしたいわけではないけれど、私達大人には「経験」がありますよね。経験上、勉強が出来ないより出来た方がいいし、学校に行かないよりは行っていた方がいいと「知っている」からこそ、先回りして答えを教えたくなってしまう。そして子供が苦労しないように導いてあげたくなる。
これは親心ですし、「絶対ダメ」という訳ではないと思います。

ただ、もしお子さんに「あなたが困るから」と言いたくなったら、この「課題の分離」の話をちょっと思い出してほしいのです。



親の「価値観」と「経験」で子供を動かそうとしない

「学校に行かないと困る」
「学校に行った方がいい」
「学校は楽しい所」
「学校は行かなくてはならない所」
「学校に行かないなんて甘えている」

お子さんが「学校に行かない」と言った瞬間に湧き出るこれらの反応の言葉は、あなたの「経験」から培われた「価値観」をとても良く反映していると言えます。
「価値観」はそれぞれの人固有の「経験」を通して育まれていくものですから、いくら親子とは言え「全く価値観が同じ」という事は本当にまれではないかと思います。

ですが、子供という自分の「分身」の様な存在であるが故、「自分と同じように物事を考えているであろう」「自分と同じように考えて行動して欲しい」等、知らず知らずのうちに期待を寄せてしまいがちです。

もしあなたのこの「無意識の期待」によって、お子さんが追い詰められてしまうとしたら。
それはきっとあなた自身も望まない事ですし、分かった後で「あの時ああしてあげていたら」と後悔しても、やり直せることとやり直せない事がありますよね。

ですのでお子さんが本当にSOSを出してくれた時ほど、自分とお子さんの「価値観」を知るチャンスだと思って、こんな風に声掛けをしてみてはどうでしょうか。


自分の価値観を知って子供と「線引き」する

まずは自分の価値観を知る

「課題が分離」出来ているか、また自分の「価値観」を子供に押し付けていないかも、そもそも自分の「価値観」がどんなものかを知らないと判断する事が難しいと思います。

そこでまずはご自分にこんな質問をしてみてください。
出来れば紙に書きだしてみましょう。


「学校とはどういう所ですか?」
「なぜ学校に行かなくちゃいけないんですか?」
「学校に行ったら何が得られますか?」

特に「なぜ」の質問では「当然だから」「義務教育だから」のような一般論ではなく、あなた自身の考えを書いてみてください。

そしてその答えをじっくり見てみて更にこう問いかけてください。


「子供はどう思っているか?」

一番良いのはお子さんに尋ねる事ではあるのですが、もし難しければ「お子さんの今までの言動を元に推察する」方法でも構いません。(でもなるべくお子さんに訊いてあげてください)


まずはあなた自身の価値観と、お子さんの価値観が「違う」という事を知る。
そこから始めていただければと思います。

そして価値観には優劣も正誤もありません。
ただ自分はそう思い、ただ相手はそう思うだけです。

お子さんとの価値観の違いが分かったらまずは認めてあげてください。
私はこう思うけれど、あなたはこうだったんだね、
教えてくれてありがとう、と声をかけてあげてください。


結論を焦らない事

それが出来たらついやってしまいがちなのが、「じゃあどうする?」とすぐに結論を促したり、「とりあえず行くだけ行ってみようよ!」と誘う事ですね。
まずはお子さんの本音をしっかりと聴き、お子さんが自分で「じゃあどうする?」「とりあえず行くだけ行ってみるか」という気持ちになるまで見守ってみる事も大切だと思います。

勿論一筋縄ではいきません。「そんな正論分かっている!」とお叱りを受けても仕方ないと思います。
でも今はお子さんの心に「ガソリン」がたまるのを待っている状態。
もしガソリン不足で出かけようとしたら目的地にも辿り着けず、元の場所にも戻ってこれない、なんて事になってしまうかもしれません。

私がお教えしている「お子さんの本音を聴きだすための傾聴」の講座でも、「親子間の傾聴は焦らなくていい」とお伝えしています。次の日もその次の日も会えるからです。

見守るのは本当に大変だと思います。何もしない、何も言わないというのが子育てでは一番難しいと私も感じています。でも、本当にお子さんがSOSを出した時こそ親も踏ん張りどころ、そう思ってみるのはいかがでしょうか。



生きていてくれて、ありがとう

最後に、私がお会いしたある占い師さんがお話ししてくれた事をシェアさせてください。
彼女のもとには不登校に悩むお母さんがお子さんと一緒に来る事もあるそうです。
お母さんは「何とかして学校に行かせたい」「学校に行かない理由が分からない」と藁をも掴む思いで相談するそうです。

その時に占い師さんはお子さんにこう言うそうです。

学校に行けない理由は分からないし聞かない。

だけど「生まれてきてくれてありがとう」「来てくれてありがとうね」

 

そう「ありがとう」をたくさん言うそうです。彼女は私に「子供は『子』ではなくて『個』。親とは違うの。『個』を大切にしてあげてね」と語りました。
彼女に「ありがとう」と言われたお子さんはホッとしたような顔になって、何事もなかったように学校に行くことが出来るようになる子もいるそうです。

子供の価値観をあるがままに受けいれる

そんな風に声をかけてあげられたらいいなと私も思うのです。

  
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