前回は、誰かのためにした行動にお礼を言うことで「あなたは必要とされている子である」と子どもに伝える大切さについてお話ししました。今回は子どもの可能性を伸ばすほめ方について、具体的な言葉とともにお話しします。
目次
やってはいけない子どもの「ほめ方」
承認の欲求
アメリカの心理学者マズローは、人間は自己実現に向けてつねに成長していくものであり、その欲求には5段階のステージがあることを理論的に説明しました。生命維持のための「生理の欲求」を始めに、より良い環境で健康に安心して暮らすための「安全の欲求」、そしてその2つが満たされると「役に立ちたい」「人に受け入れられていると感じたい」と願うより高次な「社会的欲求と愛の欲求」が生まれます。そして自分には価値があるという他者評価・自己評価を求める「承認の欲求」、4つの欲求全てが満たされると「なりたい自分になる」という「自己実現の欲求」と、ピラミッドを登っていくように、自己実現に向けて1ステップずつ成長していくイメージです。
前回は子どもが他者との関わりの中で存在していくために非常に重要な「社会的欲求と愛の欲求」を満たすために、「誰かのために行動したことに『ありがとう』と言うこと」をおすすめしました。そのベースを整えた上で、お子さんの可能性を伸ばすには、更に高次な欲求である「承認の欲求」を満たしてあげる必要があります。
人は誰もが認められたい
「承認の欲求」は「尊重の欲求」とも言われます。「人にすごいと思われたい」「価値がある人だと思われたい」などの「自分という人間を認めてほしい」という欲求です。「SNSでいいね!をたくさんもらいたい!」というのも「承認の欲求」ですね。たくさん「いいね!」がつくということは、自分の投稿に対してたくさん「承認」してもらったということ。だから自分が「すごい」「価値がある」ように思えて嬉しいのです。
「承認の欲求」を満たすのは簡単
恐らく多くの親御さんがこの「承認の欲求」を満たすほめ方を既に実践していると思います。絵が上手に描けたこと、かけっこで1等賞を取れたこと、テストで100点を取ったことなどに対し「すごいね!」「えらいね!」と、きっとお子さんをほめてあげているでしょう。お子さんはほめられる度に、きっと素晴らしい笑顔を見せてくれ、「もっとうまくなろう」「もっとできるようになろう」とがんばっているのではないでしょうか。親としても、自分がほめた時のお子さんの誇らしげな顔を見るのはとても嬉しいですよね。でも実は「いいね!」を押すように「承認の欲求」を満たすのはとても簡単であるがために、注意をしていただきたいことがあるんです。
「何を」ほめていますか?
お子さんに「すごいね!」「えらいね!」と言った時、その「言葉」が「何をほめているのか」を考えたことはありますか。きっと多くの方は「咄嗟に」お子さんに「承認の言葉」をかけているのではないかと思いますが、具体的に「何をほめているのか」を伝えないほめ言葉は単純に「結果」に対する「評価」になってしまう可能性があるんです。
お子さんの「結果」を「評価」していませんか?
先の例でお話ししましょう。お子さんが「ママ、見て!上手に描けたよ!」と絵を見せてくれたします。「わあ!すごいね!」とほめる、よくある日常の光景ですね。ですが「何をほめているのか」が明らかにされていないことにお気づきでしょうか。このままだと「上手に描けたあなたの『絵がすごい』」のか「上手に絵を描けた『あなたがすごい』」のかが分かりません。
お子さんが100点のテストを見せてくれた時はどうでしょう。「わあ!すごいね!」とほめることは同じように「100点を取ったことがすごい」のか「100点を取ったあなたがすごい」のか、どちらとも取れてしまいますよね。
他にも「上手!」「えらいね!」など、「何をほめているのか」が曖昧なほめ言葉は結構あります。無意識のうちに使ってしまいがちですが、「絵がすごい」「100点を取ることがすごい」のように、親が意識しているいないに関わらず「お子さんの結果に対する評価」になってしまうことがあるんです。
お子さんが「結果重視型」人間に?!
そうやって「結果」に対して「評価」し続けてしまうと、お子さんが「結果を重視する」子になってしまう可能性があります。「絵を描く楽しさ」よりも「この絵は人にほめられる絵かどうか」、「分からない問題を解いていく楽しさ」よりも「いい点数が取れるかどうか」をモチベーションにしてしまうのです。この場合、「結果」が出ている時はいいのですが、「結果」が伴わなくなると「やること自体がつらくなる」危険があります。趣味も勉強も同じで、人に「評価」されることが「認めてもらう」ための方法だと考えてしまうと、「評価されない自分には価値がない」と感じ、続けることをやめてしまうのならまだしも、無気力になったり、劣等感を抱いてしまうのです。ほめることが子どもを追い込んでしまうのであれば、これは「正しいほめ方」とは言えませんね。
正しい「ほめ方」はこれだ!
ほめない方がいい
お子さんが「結果重視型」人間にならないためにどんな言葉でほめてあげるのが「正しいほめ方」なのでしょうか。
衝撃の事実をお伝えします。「ほめない方がいい」んです。「絵がすごい」「100点を取ることがすごい」はもちろんNGですが、「上手に描けるあなたがすごい」も「100点が取れたあなたがすごい」もあまり望ましいほめ方とは言えません。なぜならこれも「対象が変わっただけで『評価』にすぎない」からです。「すごい」「えらい」という言葉自体が「評価」の言葉だからです。
親御さんとしては「努力したことをほめてあげるのがなぜいけないのか」とお思いになるでしょう。その理由は2つあります。
ほめない方がいい理由
一つは「努力することがいいことだ」という刷り込みに繋がる可能性があるからです。きっと多くの人が「努力をするのは素晴らしいことだ」「努力すべきだ」と教えられて育ったと思います。ですが、私個人はあまり「努力」という言葉が好きではありません。なぜなら「努力」という言葉は、人を動かす原動力になる一方で、人を追い詰めてしまう凶器にもなるからです。がんばり屋さんほど「自分はまだまだ努力が足りない」と自分を追い詰めてしまい、身体や心を傷つけてしまうことがあります。
もう一つは絵を描くことも、勉強することも、お子さんが「自分自身のため」にやることで、誰かに「ほめてもらうためにやること」ではないからです。「努力したことをほめてもらう」ことも、人に「がんばったね」と「評価」されて「自分を認めてもらう」ことに他なりません。「がんばったね」とほめてもらうことが目的になってしまうと、先にお話ししたように「ほめてもらえなかった」時に、行動するのが嫌になってしまったり、評価してくれない相手に憤りを感じてしまうようになることだってあるんです。
「ほめる」ということは「評価」につながる危険性をはらんでいます。だからこそ気を付けなければいけないし、「ほめない方がいい」のです。
ほめるのではなく「寄り添う」
では具体的にどうしたらいいのでしょうか。お子さんが「上手に描けたでしょ!」と嬉しそうに絵を見せてくれるのに、何も言えないなんて可哀そう!そうお思いになるお子さん想いの優しいあなたにとっておきの「言葉」をお伝えします。それは「上手に出来たんだね!」です。
「上手だね!」と何が違うのか。それは「上手に描けた」というお子さんの気持ちに対し「上手に描けたんだね!」と「寄り添っている」という点です。主役は「お子さんの気持ち」です。お子さんの「上手に描けて嬉しい」という気持ちを「復唱した」に過ぎず、絵の良しあしや努力について「評価」しているわけではありません。ですがお子さんにとっては「上手だね!」と言われたのと同じ効果があるんです。なぜなら「お子さんの気持ち」を「復唱する」ことで「認めてあげた」からです。
「共感」は「承認」の仲間である
ご自身も経験がありませんか。「大変だったんだよ」と愚痴をこぼした時に「そっか、大変だったんだね」と言ってもらえるとそれだけで気持ちが楽になること。自分がやったことに対し「評価」や「アドバイス」が欲しいのではなく、ただ「共感」してほしいことはよくあります。むしろほとんどの場合が「共感」してほしいだけなのかもしれません。私は「共感」は「承認」の仲間だと思っています。しかもこの「共感」は「自分の気持ち」を認めてもらえるのです。自分が優れているかどうかや、自分が生み出した結果がすごいかどうかではなく、「自分という人間をそのまま受け入れてもらえる」一番嬉しい「承認」であるとも言えます。
最高のほめ方は「ありのままを認めること」
これは何が嬉しいかと言うと、認めてもらうことに条件がないのです。自分が感じたことをそのままに認めてもらえる。しかも大好きなパパとママが自分の嬉しさや誇らしさと同じ感覚を抱いてくれている。これほどお子さんにとって励みになることはないと思います。ありのままを認めてもらうと、お子さんは自由に発想したり、本当に自分が好きなことに打ち込めるようになります。親御さんがほめることで上に引っ張り上げなくても、お子さんが自ら上へ上へと伸びていくのです。そこに「努力」という感覚はありません。ただ自分がやりたいからやる、そうやって夢中になっているうちに結果が伴っていくことほど、お子さんに自信と勇気を与えるものはないと思います。
否定せず「ありのままの子ども」に共感する!
いかがでしたか?「否定せずにありのままを認めてあげること」。これが私が考える「最高のほめ方」です。大切なのは「一人の個」としてのお子さんと丁寧に向き合うこと。100の適当なほめ言葉よりも、お子さんの価値観や気持ちを尊重した1の丁寧な共感の方がお子さんの心を動かします。ぜひ今日から実践してみてくださいね!