「子どもはほめて伸ばす」感覚的に知ってはいるけれど、いざ「ほめてみよう!」という時にどんな言葉を使えばいいか迷った経験はありませんか?今あなたが使っている「ほめ言葉」、実は間違っている可能性があります。今回は「正しいほめ方」についてお伝えします。
目次
ほめて伸ばすことがなぜいいの?
人は「自分に価値がある」と思いたい
ほめて伸ばすことはなぜいいのでしょう。自信を育てる、チャレンジできる子になる、色んなメリットがあると思いますが、私が思う一番のメリットはお子さんが「自分には価値があると思えるようになること」です。「自分には価値がある」と知っている子は自分を大切にし、自分を敬うことが出来ます。他者への思いやり、尊敬もとても大事なことですが、お子さんが自分らしく、望む人生を送るために不可欠な「信念」です。
人は誰しもが「認められたい」「自分には価値があると思いたい」という願望を持っています。アメリカの心理学者アブラハム・マズローは「人間は自己実現に向けて成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階に分けて理論化しました。「マズローの欲求5段階説」として有名なこの理論は、私たち親であれば知っておいて損がない大切な理論です。
マズローの欲求5段階説
人間の欲求は生命維持のための「生理の欲求」を始めに、より良い環境で健康に安心して暮らすための「安全の欲求」、そしてその2つが満たされると「役に立ちたい」「人に受け入れられていると感じたい」と願うより高次な「社会的欲求と愛の欲求」が生まれます。そして自分には価値があるという他者評価・自己評価を求める「承認の欲求」、4つの欲求全てが満たされると「なりたい自分になる」という「自己実現の欲求」と、ピラミッドを登っていくように、自己実現に向けて1ステップずつ成長していくイメージです。
ほめることは「承認の欲求」を満たす
マズローによれば、人間は自己実現に向けて絶えず成長していく生き物であり、「自己実現の欲求」が満たされると、他者に寛容、創造性があるなど、多くの親御さんが「こんな大人に育ってくれたらいいな」という特徴を備えるようになるそうです。この「自己実現の欲求」はピラミッドの一番上ですから、その手前の「承認の欲求」がきちんと満たされている必要があります。他者、そして自分が「価値がある」と評価することが「承認の欲求」を満たしますから、「絵が上手だね!」「足が速いね!」等、ほめて「あなたには価値があるんだよ」と伝えてあげることがまさしく「お子さんの自己実現のための基礎」であると言えるでしょう。
ほめて育てることがお子さんの可能性を伸ばす、チャレンジできる子になる、というのは、ほめることでお子さんが自己実現に向かって成長できる基礎が出来上がるからなのです。欲求はピラミッドですから、より高いところへ登っていくためには基礎が大切ですよね。
実は大切なのは「社会的欲求と愛の欲求」を満たすこと
でも「ピラミッドの基礎が大切」と考えると、「承認の欲求」以前に大切なことがあるのです。それは「社会的欲求と愛の欲求」の基礎づくり。すなわち「自分は誰かの役に立っていて、居場所がある」という確信を育ててあげることです。多くの「ほめ言葉」は子ども自身の能力、努力、性質を評価するものでしょう。例えば「上手に絵が描けたね」「足が速くてかっこいいね」「勉強が出来てすごいね」などの言葉です。これは「あなたには価値がある」と伝えていることですから、「承認の欲求」を満たすことになります。
でもステップを踏んで欲求を満たしていくということが正しいとすれば、実は「承認の欲求」以前に「社会的欲求と愛の欲求」を満たしてあげなくてはなりません。実はこの「社会的欲求と愛の欲求」が満たされていないと、孤独感や社会不安、うつ状態になりやすいとすら言われているんです。
「誰かの役に立っていること」をほめよう!
「社会的欲求と愛の欲求」を満たすほめるべき場面とは?
ですのでまず、「誰かの役に立っている」という欲求を満たしてあげること、これが一番大切な「ほめ方」となります。ではどんな場面でほめてあげるのがいいのでしょうか。
具体的に言うと小さいお子さんであれば「ママのためにご飯の後お皿を運んでくれた」「妹・弟に優しくしてくれた」などが、「誰かの役に立っているとほめてあげるシーン」と言えるでしょう。お子さんが「自分のためではなく、家族を喜ばせたり、助けるために行動した時」は親御さんにとって非常に大事な「ほめ時」です。これを逃さずに適切に、繰り返しほめてあげることでお子さんは「自分はパパやママの役に立てるんだ」という自信を育てていきます。「家族の役に立っている」という自信は、「家族」という集団の中で「自分は必要とされている」つまり「自分の居場所がある」と感じることにつながります。この「居場所がある」という確信は非常に大切です。保育園・幼稚園、学校、会社は「アウェイ」です。大人でも同じですが、居場所をつくるために努力しなくてはなりません。でも小さい頃に自分には居場所、すなわち「ホーム」があると確信できれば、万が一「アウェイ」で居場所をつくれなくても、「ホーム」に戻れば安らぎを得ることが出来ます。「人の役に立てる」自分、人に必要とされる自分を見つけることが出来ます。この「確信」があるかどうかは非常に重要なポイントで、だからこそこれがきちんと満たされないと社会不安やうつ状態になりやすいとすら言われるとても大切な欲求段階なのです。
では、この大切な欲求を満たす場面は分かったとして、どんな言葉でほめてあげるのがいいのでしょうか。
「えらいね!」「すごいね!」はNG!
お皿を運んでくれたこと、下の子に優しくできたことに対し「えらいね!」「すごいね!」と言っていませんか。実はこのほめ言葉は「NGワード」なんです。なぜなら「親と子どもに上下関係をつくる言葉」だからです。「えらいね」「すごいね」の前に無意識に入ってしまっているのは「子どもなのにこんなことができてえらいね!すごいね!」という言葉です。あなたのために何かを運んでくれた友人や同僚に「運んでくれてえらいね!」と言うでしょうか。言わないですよね。「子ども」というだけで「対等」ではないと思ってしまっている証拠です。お子さんが小さいうちはそれでも「役に立っている」と感じることに幸福感を得るかもしれませんが、家族の構成員としての立場は対等なはずですから、お子さんが成長するにつれ反発心を抱く可能性があります。
そしてこの言葉は「勉強が出来てすごいね!」など「承認の欲求」を満たす時にも使う言葉ですから、子どもは「自分への称賛」と受け取る危険性もあります。人から称賛されるのは気持ちがいいもの。お子さんは「称賛」を得るために行動するようになるかもしれません。それでも行動しないよりはいいかもしれませんが、「称賛」は実は「言葉のごほうび」です。「手伝ったんだからお小遣いちょうだい」「下の子の面倒見てたんだからほめてもらって当然」など、「ごほうびのために行動する」という親御さんには望ましくない状態になってしまうことだってあります。
正しい「ほめ言葉」
先ほどの例で友人や同僚があなたのために何かをしてくれた時、あなたは何と言うでしょうか。そう、「ありがとう」ですよね。この「ありがとう」は言った自分だけではなく、言われた相手に幸福感をもたらす効果があります。「人の役に立てた」と実感できるからです。まさしく「社会的欲求と愛の欲求」が満たされている状態です。そしてほめる時はただ「ありがとう」ではなく、「お皿を運んでくれてありがとう」など「してくれたことを具体的に伝える」のがより効果的と言われています。なぜなら相手は「これをするとこの人の役に立つ」という「パターン」を知ることが出来るからです。同じことを繰り返すとこの「パターン」は強化されますから、意識しなくても自然に「こういう時はこうしてあげよう」と行動できるようになるのです。
人の役に立つことが幸福感をもたらす
「社会的欲求と愛の欲求」つまり「人の役に立つと実感できること」が人の幸福感を高めるという実験データがあります。ある実験ではお金を自分のために使うよりも、人にプレゼントを買う、あるいは寄付をした方が、幸福だと感じた被験者が多かったそうです。また、ボランティアに参加すると年収が2倍になったのと同じくらいの幸福感を得ることが出来るという報告もあるくらいです。
これは紛れもなく「人の役に立ち、社会に必要とされている」という欲求が満たされるから、なんですね。
「人の役に立てていること」を全力でほめよう!
いかがでしたか?お子さんの能力や努力をほめるのもとても大切ですが、まずは「誰かの役に立てていること」に「ありがとう」を伝えること。これがお子さんが自分を信じ、なりたい自分になるために必要なステップです。次の段階「承認の欲求」を満たす正しいほめ方についてはまた別の機会にお話ししますね。ぜひ今日から実践してみてください!